この数年、リモートワークやオンライン会議、手渡し書面の削減のような非接触文化がビジネスにおいても定着しつつあります。
リモートワークの普及直後は、押印のために出社することが話題になり、当時の閣僚が行政手続きにおける押印の見直しを命じたなんてこともありました。
そうした中、SDGsの普及によるペーパーレス化の推進など、社会環境の変化の後押しもあり、社内外の手続きの電子化、とりわけ電子署名による電子契約化の機運が高まっています。
電子契約は実は新しい技術ではなく、20年以上前の2000年5月に「電子署名及び認証業務に関する法律(電子署名法)」が交付されています。
しかし、当初のICカードを使ったローカル型の電子契約は手軽ではなく、費用対効果の面でも普及の足枷でした。
その後、2015年前後に登場したクラウド型電子契約サービスがその技術面の向上と共に注目を集め始め、現在ではリモートワークのボトルネックである書面への押印を前提とした契約の解決策として見られるようになってきています。
民法522条2項では「契約の成立には法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない」と定められており、原則として契約の成立には書面の作成や押印が要件ではありません。
コロナ禍におけるビジネス習慣の変化により、押印文化の法的意義が見直され、電子契約による契約が一般的に認知されるきっかけになりました。
紙文書と押印を省略することができる電子契約は、時間と場所の制限を無くし、働き方改革にも貢献するなど、まさにいまの時代にマッチしています。
もちろん、対面での押印契約とは異なり、なりすましや改ざんについての不安や抵抗を感じる方が多いことも事実です。
しかし、なりすましや改ざんの防止が担保される技術が整ったことで、電子署名を使用した電子契約は、むしろ書面よりもそれらのリスクが低いといえます。
広義ではメールのやり取りでの発注依頼なども電子契約に含まれると考えると、ビジネスにおいてはすでに一般的でもあります。
思えばオンラインショッピングの黎明期も同様ではなかったでしょうか?
「カード情報や個人情報が漏洩するのではないか?」」「本当に商品が届くのだろうか?」と不安を感じながら利用していたことと思います。
現在では、私たちの生活に欠かせないほど身近になり、そんな不安を感じる機会は少なくなりました。
また、電子契約は、紙文書のように保管スペースも必要なく、検索性にも優れています。
印紙税の課税対象ではないことや契約書の郵送コスト、人件費の削減、さらには紛失による情報漏洩や未回収防止などコンプライアンス強化にもつながります。
国も働き方改革やIT化推進施策として、法による規制緩和を通じて電子契約の普及を推進しており、弊社でも積極的に取り組んでいるところです。
個人的にも「電子化による押印業務の廃止」には大賛成ですが、いっぽうで「文化としての判子」も大切にしていきたいものです。
ひらがなやフリガナ付きの判子、様々な書体のものなど、遊び心やデザイン性に富んだ判子も数多く見られるようになりました。
個性とアイデンティティを発揮できる一つのツールとしての判子文化はこれからも残っていってほしいと切に願います。